赤い月
「ニヤニヤしてんなよ。」
薫は呆れ顔で、景時の頬を片手でつねった。
「いひゃいぃ」
「また『鬼神様』か?
いい加減にしとけよ。
完っ璧に、フラレてたじゃねぇかよ。」
出血多量と極度の疲労で意識をなくした景時が目覚めると、あの新月の夜から既に三日経過していた。
恐慌に陥った慈龍寺も当初は警戒体勢にあったものの、今ではあの夜のことは夢であったかのように落ち着きを取り戻している。
そう…夢。
オニは所詮、ヒトの産物。
おぞましく恐ろしいが、僧たちにとっては身近なものだ。
だが、鬼神は違う。
姿を見れば、それは奇跡。
言葉を交わすなど夢のまた夢。
もう今生で相見えることはない。
薫を含め、誰もがそう思っていた。