赤い月
だが同時に、景時自身には壁がある。
人の心には容易く忍び込むくせに、自分の心への侵入は許さない。
無意識なのかもしれないが、大切な人をつくることを怖れているかのようにも思える。
『来る者は拒まず、去る者は追わず』という恋愛スタンスも、彼の心の壁の副産物ではないだろうか。
景時と生活を共にし、修行に明け暮れる中、彼もまた母親をオニに喰われていたことを薫は知った。
「俺、5才にもなってなくてさぁ。
目の前でヤられちゃったショックで、それまでの記憶も断片的なンだよねー。」
そう語る景時は、やはりヘラヘラ笑っていた。