赤い月
─ヤット…
見ツケテクレタノカ…
早ク殺シテクレ
モウ喰イタクナイノニ…
飢エガ止マラナインダ…
躰の右半分は石の色。
アンバランスに膨張した左腕。
耳の辺りまで裂けた口。
剥き出しになった乱杭の牙を血に染めて、青い瞳に苦悩を湛えたオニが言った。
もうヒトを殺したくはないと。
なのに本能には逆らえないと。
涙をこぼしながら死に救いを求めた人鬼に、千景は出逢ってしまった。
意思を持ち、流暢に話す。
かなり年を経た人鬼だろう。
今まで多くのヒトを喰らい、多くのヒトを泣かせてきたに違いない。
そうとわかっていながら、狩れなかった。
恐怖も戸惑いもなく、哭きながら牙を剥くオニを千景は強く抱きしめた。
─泣かないで。
私があなたを助けてあげる。