赤い月
千景は倉に籠り書物を読み漁った。
元々、オニの本能を抑制する術は存在した。
しかしその術はオニの飢えをなくす為のものではなく、オニがヒトを喰えなくする為だけのもの。
過去、幾人もの術者がその術を用い、たまに餌を与えることでオニを懐柔し、使役してきたが、そのほとんどが失敗に終わっていた。
抑制され続けたオニの本能が術者の呪力を上回った時、術者はもちろん周囲一帯がオニの飢えと怒りに飲み込まれた。
そんな術では、彼の苦しみは救えない。
圧する為ではなく、助ける為の呪術を編み出すことに千景は没頭した。
精神統一がままならず、念のコントロールが未熟だった千景だが、術に関しては秋時も舌を巻くほどの理解力と応用力を発揮していた。
千年来の常識をブチ破り、簡易式お手軽結界『結壁』を造り出したのも彼女だった。