赤い月

千景と共に本堂の床を拭き、千景と共に台所で巨大な躰を丸めながら芋の皮を剥く。
千景が眠る時や入浴する時ドアの前で座り込むゼンキの姿は、まるでボディーガードのようだった。

オニ狩りにも当然のように同行し、失敗しがちな千景を助けた。

他の僧の手助けまですることもあって、皆は警戒しながらもゼンキの存在に慣れていった。

しかし、秋時だけは別だった。

千景を見つめる青い瞳の中に、千景を抱える歪な腕に、己を救った者に対する感謝の思い以上のナニカを感じる。

優しさ、切なさ、そして愛しさ…

ゼンキはオニ。
そんな感情は持っていない。

秋時は膨れ上がる不安を何度も打ち消した。
遠回しにだが、千景にも何度も忠告した。

だが三年後、不安は現実となって秋時を打ちのめした。

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