赤い月

─ゼンキを愛してる。


千景は告げた。


─ならば、俺が狩ろう。


秋時は武器を取った。

斬鬼刀を鼻先に突き付けられながら、千景の隣に座したゼンキは身じろぎもせず秋時を見つめた。


─立て。
 大人しく狩られたりはしない だろう?
 このオニめ。


─千景ヲ愛シテル


ぎこちないが、揺るぎない静かな声。
揺るぎない澄んだ瞳。

揺らいだのは、秋時の斬鬼刀だった。


─スマナイ
 自分ガ ナニヲシタカハ ワカ ッテイル
 斬ルナラ、斬レ


─…何をしたか、だと?
 それはどういう…


─私のおなかの中に、彼との赤 ちゃんがいるのよ。


秋時の言葉を遮ったのは、愛する人との子を身籠った誇りと喜びに満ちた、千景の声だった。

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