赤い月
目の前が暗くなり、頭の中は真っ白になった。
秋時が我にかえった時には、バジュラを握りしめたままゼンキを殴っていた。
ヒトの拳などオニには通用しないと知っているのに。
できちゃった婚を報告された父親か、俺は?!
秋時は自分に舌打ちした。
問題はもっと深刻だ。
─堕ろせ。
腹の子は『赤光』だ。
─ごめんなさい、お父さん。
私、生むわ。
声を荒げる秋時に対し、千景は穏やかに微笑んだままだった。
陳腐なホームドラマのようだ。
現実はあまりにも苛酷なのに。