赤い月
いつの間にか繋がれていた千景とゼンキの手を、秋時はぼんやりと見ていた。
震えることもなく、安心しきったように巨大な手に包まれる、白い小さな手。
千景はこの小さな手で、「愛の証」を守る呪術を編み出すつもりだろう。
でもそれは、おそらく千景でも不可能だ。
『赤光』にヒトとしての生を与える術には、神の手が必要だと言われている。
人間の術者が何十人、何百人集まろうが、『赤光』の闇はどうすることもできないのだ。
なのに、彼女の瞳には迷いも怯えもない。
愛する者と共にあるから?
愛する者との間に宿した命と共にあるから?
愛する者たちとの未来を信じているから?
いつも自分の心を偽らず生きてきた千景は、今度は自分の信じる愛を見据え、困難極まる道をそれでも真っ直ぐに歩もうとしていた。
…オニと共に。
だから、やっぱり…
─…祝福は、しない。
秋時は俯いたまま、掠れた声を絞り出した。