赤い月
一人になった本堂で、秋時は沈みゆく月を眺めていた。
酒はもうなくなったが、眠る気がしない。
療養の間泊まっていた寺の一室に帰した景時もまだ眠れず、同じ月を見ているかもしれない。
よく似た母子だ。
『ありがとう』と言った、眩しい笑顔。
真っ直ぐな瞳。
揺るぎない心。
心配ばかりかけるところも、全く同じだ。
景時はきっと、千景のように生きるだろう。
困難にも拒絶にも絶望にも立ち向かい、己の心に従い、ひたすら前を見てがむしゃらに生きるだろう。
だから今度こそ、間違えはしない。
今度こそ、後悔はしない。
愛する者が信じた道を、共に信じよう。