赤い月
「阿呆が。」
突如、大気を震わせて鬼気が膨れ上がった。
動けなくなるほどの。
それどころか呼吸すら困難になり、意識が飛びそうになるほどの、鬼気。
今にも圧し潰されそうな圧迫感に耐えながら、わずかに顔を上げた景時の目に映ったモノ…
月光に照らされたオニの巨大な背に生えた、長い爪。
「…ガッガッ」
オニの苦しげな呻き声に合わせて、華奢な白い手も顔を覗かせた。
その指には、脈打つ心臓が握られている。
「眠るがよい。」
声と共に、抉り出された心臓から青い炎が上がった。
噴き出す血や体液。
のたうちまわる躰。
耳を塞ぎたくなるような断末魔ですら。
オニの全てが広がる炎に飲み込まれていった。