赤い月

(『赤光』、ね…)


幼かった薫を救った小さな少年の心の壁は、思っていたよりずっと、厚く強固な代物だったらしい。


(愛されてる、なんて納得したフリしちゃってさぁ…)


ますます絶妙に人と距離を置くんじゃねぇの?

自分がオニである事実を、薫は知っている。

そう悟った時に見せた、不安に揺らぐ景時の瞳が、そんな未来を薫に予感させる。

だが、今夜『ありがとう』と振り返った景時には、一抹の不安も迷いも見られなかった。

こんなに長い間兄弟のように一緒にいたのに、景時のあんな顔は初めて見た。

強い決意を秘めた、男の顔。

あのオニが、景時の心にできた壁を壊す鍵になるのなら…

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