赤い月
「…
参ったな。
もう行くの?
気ィ早すぎナイ?」
ふわりと躰を浮かび上がらせた彼女を見て、景時は右手をパーカーのポケットに突っ込んで、肩を竦めた。
「もうここに用はない。
妾は追っ手がかかっておる身でな。
一ヶ所に長く留まれぬのじゃ。」
「え? まじ?
隠れ家、提供するよ?
って、俺ン家だケド。」
「ほう。
旨い酒があるのなら、立ち寄らぬこともないが?」
「ロマネコンティでも、奮発しちゃうよ。
君が望むなら。」
恋人同士のように肩を並べ、軽口を叩きあっているだけのようなのに、宙に浮かんだ美しい鬼と若いオニ狩り僧の周囲の空気が、緊張を孕んでいく。