赤い月
滑るように近づいてきた彼女が身を屈め、景時の髪に触れた。
「そうか…
そなた、己を知らぬのか…」
優しく、労るように、頭を撫でる白い手。
吐息がかかる距離。
微かな麝香の香り。
俺は、目眩がするほど幸せなのに…
君は、どうしてそんなに悲しそうなの?
暗い哀しみを溢れそうなほど湛えているのに、渇ききったルビーの瞳。
彼女は…オニは泣けないのだろうか?
悲しみを吐き出すことはできないのだろうか?