赤い月

「景時。
『赤光』の大半は生まれることなく流される。
生まれたとしても、直後に殺されるか…捨てられる。」


「へ…」


「だが、そなたは生きておる。
そなたの為に、己の身を犠牲にできる祖父と共に。
そなたの為に、妾に刃向かえる友と共に。

術者の命を賭したであろう、その身の加護と共に。」


景時は自分の胸に拳を当て、無意識に握りしめた。
子供に言って聞かせる母のような優しい声が、砂漠に落とされた水滴のように胸に浸透していく。


「その意味がわからぬほど…
己の価値を見失うほど、そなたは阿呆ではあるまいな?」


「…うん。」


彼女は秋時に支えられたままの景時に近づき、その柔らかい髪を白い手で撫でた。

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