恋人達の時間
微笑んで顔を離そうとしたら
健人の左手が私の後頭部を押さえていて
離すことができない。
近すぎてちょっとぼやけた視界の中で
ふと彼の瞳が笑ったように見えた。
「なんだ… もう終わりか」
寝起きのちょっと掠れた声が
妙に艶っぽくてドキドキする。
右手の親指が私の唇をなぞる。
背筋からザワザワと這い上がってくる
甘い感覚に目を閉じる。
「だって… 起きたから」
私の唇をなぞっていた指先が
頬を撫でて首筋を辿る。
「なら もう少し寝たフリするんだったな」
首筋に置かれていた手に力が込められて
引き寄せられ唇が重なり合う。
触れていたのは一瞬で
すぐに深く抉るような熱いキスに変わり
呼吸さえも奪われる。
身体が火照り始めて
頭の芯がじわじわと痺れだすと
奥深くに潜んでいたもう一人の私が
『もっと』と強請る。
キスはするよりされるほうがずっと官能的だと思う。
キスをしたまま
上半身を起こした健人の膝の上に
引き摺り上げられた私は
彼の膝を跨いで座り首へ両腕を回す。
ようやく離された唇は
強く吸われたせいでひりひりと痛い。
それでも好き。健人のキスが好き。
彼の額に私の額を当てて
「もっとして」と呟けば
口元に笑みを浮かべて
「仰せのままに」と手首を掴まれ
恭しく手の甲にキスをされる。
「ねぇ知ってる?」
「ん?」
「香水はキスして欲しい場所につけるって」