恋人達の時間

掴んでいた私の手首の内側に唇を寄せ
「覚えておく」と囁いてキス。
手首を離し、代わりに私の背中を抱き寄せた。



「次はここ…か」



耳朶に食むようなキス。



「それからこっちも…」



私の肌の上を這う唇に、背中を滑る指先に
「…亜紀」と何度も甘く私を呼ぶ声に全身が粟立つ。



好き好き好き。健人が好き。健人のキスが好き。




とびきり甘くて熱いキスの痕を残して。
頬にも瞼にも首筋にも肩にも胸にも背中にも指先にも。
もっともっともっともっと。
キスしてもっと。



「キス… だけで… いいのか… ん?」



ちゅ、ちゅ、と小さく音を立てながら
私の胸元にキスする合間に囁く
健人の艶声が私を煽る。
彼の柔らかい髪を指で乱して
背筋を震わす快感の波をやり過ごす。



「ぁ…いいの」
「本当か?」
「ん…。いい…の」
「嘘だろ」
「嘘じゃぁ…ない」
「正直に言えよ」



半端にたくし上げられたニットを私から引き剥がして    
指先で肩のストラップを落とす。



「絶対 言わせてやる」



吐息混じりに耳元に囁くこの声が
私の薄氷ほどになってしまった理性を
粉々に打ち砕いた。
こうなったら健人にはもう敵わない。
私はされるがままに欲望を引きずり出され
与えられるままに快楽を貪ってしまう。


でもそれでいい。
健人のスイッチをオンにしたら
結局は私の勝ちだ。



だからキスして。もっともっと。
「貴方が欲しい」と私に言わせてみて。




fin.
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