恋人達の時間
ドアに向かって歩き出したところで
周りの様子がいつもとちがうことに気づいた。
あちこちに散らばっている女の子達の視線が
外の一点に集中しているのに気が付いて立ち止まる。
…だから嫌だったのよ。
今まで迎えに来てもらわなかった理由はこれ。
私がやっかみや妬みの冷たい視線の的になるのは平気だけど
それとは全く別の熱い視線の的に
彼がなるのは嫌だから。
だから時間を30分遅く言ったのに。
私が待てば 彼をこんな視線に晒すような事にはならない。
それでも早く来るだろうと思って急いだのに。
誰が悪いわけでもないけれど
何となく苛々した気持ちのまま歩き出せば
開いたドアの先に彼の姿が見えた。
大きく一跳ねした後、早くなる鼓動。
腕組みして車にもたれかかるように立つ姿は
見慣れたものなのに・・・
何も、何一つ変わらない、いつもの彼なのに・・・
一歩貴方に近づくたびに胸が甘く締め付けられる。
付き合うようになって二年になるのに
今でも会った瞬間に
こんなにもときめいてしまうのはどうしてだろう。
貴方に出会って恋をしたあの日と同じように
きっと 何度も何度も・・・
貴方に恋をしてしまうのね。
「莉子」
彼が私を呼ぶ度に跳ねる鼓動。
もう数え切れないほど何度も何度も呼ばれているのに。
どうして?
その瞳に見つめられるだけで熱くなる体。
・・・どうして?
あぁもう どうしてこんなに貴方が好きなんだろう。
胸が一杯で苦しくて立ち止まってしまう。
「莉子?」
ほらまた・・・
私を呼ぶその声が引き金を引く。
貴方への思いがあふれ出して止まらない。
駆け寄って
抱き締めて
キスをして。
「好き。あなたが好きよ。愛してる!」
人目も憚らず彼に飛びつくようにしがみついた私の背中に
彼の手が優しく回され
宥めるようにトントンと叩く。