恋人達の時間
kiss me ~健人&亜紀~

入れたてのコーヒーを手にリビングへ戻ると
いつの間にかソファで転寝をしてしまった健人。
カップをテーブルに置いてソファの下に座って
眠る健人の顔を目の前に頬杖をつく。



不思議ね・・・
いつもの射る様な強い瞳が伏せられてるだけで
別人のように見える。
ちょっと可愛いなんて絶対本人には内緒。
この寝顔が好きだと思うけれど・・・
寝ちゃうなんて今日に限っては許せない。



折角土曜日と重なった今年の Valentine。
公開したばかりの話題のあの映画を観てお茶をしたら 
チョコの代わりに先週見つけた
春物のジャケットを買ってあげて
噂の創作料理のお店で食事して、なんて
デートコースを用意していたのに
会った途端に
「今日は亜紀の部屋がいい」なんて言いだすから
もっと早くに連絡してくれればいいのに、とか
ルージュの色選びに迷った時間をどうしてくれる、だとか
開けっ放しにしたクローゼットに
ベッドに広げたままの洋服だとか
取り込んでバスケットに入れたままの洗濯物だとか
コーヒーの買い置きがあっただろうかだとか
そんな事が気になってすごく焦ってしまった。



せっかくのプランが流れるのは残念だけど
そうね・・・ 部屋でゆっくり過ごすのも悪くない。
生活時間に時差がある私達。
なかなか逢えなくて寂しいくせに
「仕方ないわね」と笑ってしまうのは
私が彼より片手分大人だから。



だけど一人寝の夜もそろそろ限界。
健人の少し高めの体温が恋しくて。
「抱きたい」と思うのは何も男だけの特権じゃない。



この部屋に着くまで
ずっと離される事なくきつく絡められた指に
多分この後甘く過ぎていくだろう時間を期待して



ちょっと…ドキドキしてたのに。


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