蜜愛シンドローム ~ Trap of Kei ~
6.失いたくない
<side.慧>
時計の針は19:20を指している。
慧はノートパソコンの画面から顔を上げ、マウスを動かす手を止めた。
自室の仕事机の上には本やら書類やらが積み重なり、その一角に仕事用のノートパソコンが置いてある。
「・・・・・」
何をしていても・・・・
絢乃のことが脳裏から離れない。
慧は切ないため息をつき、目元を片手で覆った。
───あの夜。
ホテルのロビーにいた二人を目にした瞬間、慧の心に抑えきれない怒りが沸き上がった。
・・・なぜよりによって、ここに二人がいるのか。
しかも絢乃は、明らかに卓海から贈られたとわかる服を着ていた。
服の色も形も、絢乃の趣味ではないからだ。
けれど黒いドレスを身にまとい、髪を結いあげた絢乃の姿は、息も止まるほど美しかった。
───なぜ、絢乃の隣に立つのが自分ではないのか・・・。