蜜愛シンドローム ~ Trap of Kei ~
四章
1.選択
19:50。
絢乃はマンションのドアの前で、立ち尽くしていた。
・・・あれから、3日。
絢乃はひとつ息をつき、ガチャっと鍵を開けた。
玄関の中に入ると、チーズの焼けるいい香りが部屋中に漂っている。
「おかえり、アヤ!」
パタパタという足音とともに、慧が玄関に姿を見せる。
───前と全く変わらない、その明るい笑顔。
その端正な顔立ちも、完璧な形の唇に刻まれた笑みも、前と変わらないのに・・・
「・・・ただいま」
絢乃は小さな声で言い、靴を脱いで玄関に上がった。
スリッパをはき、ダイニングへと移動する。
ダイニングテーブルの上には焼き立てのグラタンが鍋敷きの上でプクプクと音を立てている。
その横には絢乃のお気に入りのマグカップが置かれ、コーヒーが湯気を立てている。
いつも絢乃が座る椅子の背には低反発のクッションが置かれ、隣の椅子の背には手拭き用のタオルが掛けられている。
・・・いつもと変わらぬ、ダイニングの光景。
けれどなぜか、見ているだけで胸が痛む。