蜜愛シンドローム ~ Trap of Kei ~
「今日はお前の好きなグラタンにしてみたよ。ナンダタウンに行った日以来だから、久しぶりかもね?」
慧はにっこり笑って言う。
───その、優しく穏やかな笑顔。
ずっと昔から絢乃に安心感を与えてくれた、その笑顔。
・・・その、瞬間。
絢乃は心の中で、自分の精神が限界を超えたのを感じた。
───もう、耐えられない・・・。
このグラタンにも、その横に置かれたコーヒーにも・・・
絢乃の背に合わせて椅子のところに置かれたクッションにも、絢乃が肌を痛めないように特殊な柔軟剤を使って洗ってあるタオルにも・・・
全てに、慧の気持ちが込められている。
───慧は、こんなに自分のことを愛してくれているのに・・・
『兄でいて欲しい』なんて・・・
自分は、どれほど残酷なことを慧に望んでいたのか・・・。
慧が、どんな気持ちで自分のためにいろいろしてくれていたのか。
───もう、知らない振りをしてこの生活を続けることはできない。