蜜愛シンドローム ~ Trap of Kei ~




絢乃は両手で顔を覆い、嗚咽した。

慧は泣き出した絢乃をじっと凝視していたが、やがてその手をぐっと握りしめた。

・・・その瞳によぎる、ひとつの決意。

俯く絢乃をじっと見つめ、慧は掠れた声で言った。


「・・・お前がもっと、冷たくて自己中心的で、おれの気持ちなんて考えない人間ならよかったのに・・・」

「・・・っ、慧兄・・・っ」

「お前は優しいから、悩み苦しんでしまう。だからおれは、つい期待してしまう・・・」


慧の声が、じわりと熱を帯びる。

絢乃は嗚咽し震えながら、ゆっくりと顔を上げた。


慧の瞳が、じっと絢乃を見つめる。

穏やかな、優しい笑顔の下に押し込められた───切ない熱情。

その熱情が慧の瞳の奥底で揺らめくのを、絢乃は息を飲んで見つめていた。


「・・・アヤ・・・」


慧の腕が静かに上がり、その白く細い指先が絢乃の濡れた頬に触れる。

・・・あの夜以来の、慧の指の感触。

慧は指先でそっと絢乃の頬を撫でながら、少し背を屈めて絢乃の顔を覗き込んだ。



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