蜜愛シンドローム ~ Trap of Kei ~
慧の言葉に、絢乃は目を見開いた。
───あの苦い記憶が、脳裏に蘇る。
誰にも言ったことがない、あの辛い記憶。
押し黙った絢乃に、慧は優しく口づけた。
「・・・お前がひどく傷ついていたのは、おれも知ってる。ずっと傍で見てたからね」
「慧兄・・・」
「本当は、お前の傷を暴いて、無理やりにでも癒したかった。・・・でもそれをしてしまったら、おれは兄ではいられなくなる。だから、見てることしかできなかった」
慧は自嘲するように言う。
その声音に、切なげな表情に、絢乃は胸がズキッと痛むのを感じた。
・・・傷ついていたのは、自分だけではない。
自分を傍でずっと見ていた慧も、傷ついていたのだ。
絢乃はひとつ息をつき、意を決した。
・・・慧になら、話してもいいかもしれない。
誰にも言ったことのない、あの記憶を・・・。
絢乃は言葉を選びながら、大学の時の辛い記憶をゆっくりと話した。
・・・絢乃の話を聞き終わった後。
慧は絢乃の肩に額を押し付け、ぐっと唇を噛みしめた。