蜜愛シンドローム ~ Trap of Kei ~
───夜。
三人は畳の居間で、初枝の料理を囲んでいた。
初枝と慧の前には日本酒が、そして絢乃の前にはチューハイのグラスが置かれている。
初枝は上機嫌で日本酒のグラスを傾けながら、口を開いた。
「そういえばね。去年の秋口に、藤村さんが電話をくれたよ」
初枝の言葉に、絢乃と慧は眉を上げた。
藤村さんこと藤村良輔は絢乃の父だ。
絢乃は両親が離婚する前までは『藤村絢乃』という名前だった。
しかし、なぜ父が初枝に電話をしたのか。
「たまたま日本に帰国していたから、連絡してみたって言ってたけどね。その後すぐにイギリスに向かうって言ってたから、日本にいたのは一週間ぐらいかもしれないね」
「へぇ~・・・」
「あの人もまだ、新しい人を見つけるって感じじゃなさそうだね。時世もアメリカで恋人と住んでるって言ってたけど、結婚とかはまだまだ先のようだね」