蜜愛シンドローム ~ Trap of Kei ~
「あの、加納さん。前に私が給湯室で落とした髪留めですけど、あれって加納さんが持ってます?」
『・・・ああ、あれか。オレが持ってる』
「すみませんが、あれ、返してもらってもいいですか?」
と絢乃が言うと。
電話の向こうで、卓海がクッと笑った気配がした。
電話越しなのに感じ取れる、黒い空気。
『・・・返してほしけりゃ、時間通りに宮崎平に来い。いいな?』
卓海の言葉に、絢乃は小さなため息をついた。
・・・あのバレッタは、慧にもらった大事なものだ。
どうしても返してもらわなければならない。
絢乃はぐっと携帯を握りしめた。
「わかりました。・・・ではまた後で」
『ああ。じゃあな』
プチッと通話が切れ、絢乃はぱたんと携帯を閉じた。
携帯を手にしたまま、落としたバレッタをぼんやりと脳裏に思い浮かべる。