蜜愛シンドローム ~ Trap of Kei ~
───人は、大きな幸せを前にすると不安を覚えるのかもしれない。
ずっと苦しみの中にいたせいか、不幸に耐えることには慣れている。
けれどいざ、幸せを手にした時───
言いようのない不安が慧を襲った。
・・・この幸せを、絶対に手放したくない。
無意識のうちに、強くそう思った。
慧はこれまで、絢乃に自分が与え得るものを全て与えてきた。
それが、自分の幸せだと思っていた。
与えることに慣れ過ぎて、奪うということを知らなかった。
・・・というより、奪うことは意識的に考えないようにしてきた。
けれど、一度許されてしまった今、絢乃の全てを際限なく奪いたいと思ってしまう。
与えることと、奪うこと・・・
きっと『愛する』とは、その両方の側面を持つのだろう。
与えることに偏ってきた自分が、その反動で今度は奪うことに偏りはじめている。
・・・と客観的に自分を見ることはできるのに、絢乃を前にすると、どうしても理性が吹き飛んでしまう。