蜜愛シンドローム ~ Trap of Kei ~
『あの人が店に来るようになってから二週間。なんだかいつも、見られている気がする。気のせいかしら』
『英悟との待ち合わせに遅れてしまった・・・。彼氏を待たせるなんて、彼女失格ね。反省しなきゃ』
彼氏・・・。
ひょっとしたら、この英悟という男が自分の父なのだろうか。
慧は内心で思いながら、日記を読み進めた。
『この頃、英悟は仕事で忙しくてなかなか会えない・・・。寂しい』
『建築家のあの人が、今度飲みにでも行かないかと誘ってきた。あまり乗り気じゃないけど、どうしようかしら』
慧は日記を読みながら、母の人間関係を頭の中で整理した。
どうやら母には恋人がいたが、それとは別に言い寄って来た男がいたらしい。
しかし次のページに書かれた内容に、慧は驚きのあまり目を見開いた。
『・・・ごめんなさい、英悟。・・・お酒に呑まれたとはいえ、私は英悟に顔向けできないことをしてしまった・・・』
『藤村さんとの一夜は、お酒の過ち以外の何でもない。・・・でもいくら後悔しても、事実は変わらない・・・』
その一文を読んだ瞬間。
慧の顔から一気に血の気が引いた。
───なぜ・・・
絢乃の父の名前が、ここに出てくるのか。