蜜愛シンドローム ~ Trap of Kei ~
・・・どうして慧は、元カノが角倉沙耶だということをひた隠しにしていたのか。
聞きたい気もするが、恐らく慧は答えないだろう。
やはり兄妹といえども、全てを包み隠さず話せるというわけでもない。
絢乃もまだ、あの大学の時の辛い記憶は慧には話せずにいる。
絢乃は部屋に戻り、携帯をバッグに入れた。
・・・今日は慧が病気だということを卓海に話して、早めに解放してもらおう。
さすがに鬼と言えど、友人が病気であれば無理なことは言わないだろう。
と思いたい。
あと・・・。
絢乃は机に置かれた会社携帯を見、昨日の春美の話を思い出した。
───雅人が辞める、ということ。
あれはまさに青天の霹靂だった。
けれど絢乃はまだ、雅人から直接、その話を聞いたわけではない。
であれば、雅人が話してくれるまで黙っていた方がいいだろう。
・・・これまで、絢乃を導き支えてくれた雅人。
あのキスが気にはなるが・・・
雅人は仕事とプライベートをきっちりと分けるタイプだ。
下手に絢乃が近づこうとしても、多分拒否されてしまうだろう。
雅人が言ってこない以上、絢乃から聞くわけにはいかない。