蜜愛シンドローム ~ Trap of Kei ~
「・・・アヤ。言って?」
「・・・っ・・・」
「一体何があったの? ・・・話して」
いつもの冷静なテノールの声。
・・・絢乃に安心感を与えてくれた、その声。
絢乃は心が麻痺したまま、震える唇を開いた。
「・・・今日、昌美おばさんのお墓参りに行ったの・・・」
「・・・え?」
「そしたら、そこにお父さんが来て・・・それで・・・」
絢乃はそこまで言い、涙に濡れた睫毛を伏せた。
・・・その黒い瞳に満ちる、悲痛な苦しみ。
絢乃の顔を見ていた慧の表情が、見る見るうちに強張っていく。
瞳に昏い光が宿り、じっと絢乃を見つめる。
絢乃はそれに気づかないまま、俯き、続けた。
「・・・お父さんが、言ったの。・・・慧兄は、・・・慧兄は・・・っ」
───その後が、どうしても言葉にならない。
絢乃はぐっと唇を噛みしめた。
これを言ってしまったら・・・自分たちは・・・。