蜜愛シンドローム ~ Trap of Kei ~
慧はふらつく頭を押さえながら、窓際へと寄った。
窓の外を見ると───
駅の方へと歩いていく絢乃の姿が見える。
・・・絢乃の背で揺れる、絹糸のように艶やかな黒髪。
まるで夜闇が夜ごと、絢乃の髪に溶けこんでいくかのように・・・。
成長するにつれ、絢乃の髪は艶やかさを増してきた。
「・・・」
慧は目を伏せ、窓のさんに置いた手をぐっと握りしめた。
・・・すぐ傍にいるのに手が届かない人を想うのは、不毛なことだとわかっている。
この想いを抱えている限り、自分は幸せにはなれない。
そう、わかっていても・・・。
───絢乃のあの髪を、他の男に触れさせたくない。
卓海だけではなく、この世の男全てを、絢乃から遠ざけてしまいたい。
絢乃の傍にいるのは、自分だけでありたい・・・。
・・・先ほど、絢乃がおかゆを食べさせてくれた時。
慧は途中で絢乃を制止した。
止めなければ、自分は絢乃に期待してはならないことを期待してしまいそうだった。
絢乃は、優しく素直だ。
・・・優しいから、自分は期待してしまう。