蜜愛シンドローム ~ Trap of Kei ~
絢乃はそれを呆然と眺めていた。
・・・バレッタが、壊れてしまった。
慧がくれた、大事なものだったのに・・・。
じわりと、目尻に涙が滲む。
絢乃は震える手を伸ばし、壊れたバレッタをそっと取り上げた。
卓海は息を飲んでその光景を見つめていたが、絢乃の目に涙が浮かんだのに気付き、ぐっと唇を噛んだ。
「おい・・・」
「・・・っ・・・」
絢乃はくるりと卓海に背を向け、そのまま走り出した。
卓海が慌てて叫ぶ。
「おいっ、絢乃っ!?」
卓海の声が背後から聞こえる。
けれど絢乃は振り返らず、バレッタをぐっと握りしめたまま、マンションの方へと走っていった。