蜜愛シンドローム ~ Trap of Kei ~
月曜。
出勤した絢乃は、運用課に行く手前の廊下で卓海に呼び止められた。
・・・あれから。
卓海から何度か電話やメールがあったが、絢乃はそれをことごとく無視した。
鬼の怒りを買うかもと頭の隅で思いはしたが、髪飾りを壊された憤りの方が強かった。
「・・・おい、絢乃」
「おはようございます加納さん。急いでいるので失礼します」
とすたすたと卓海の前を通り過ぎようとした絢乃だったが。
肩を横から掴まれ、足を止めた。
卓海は珍しく、困惑したような顔で絢乃を見下ろしている。
「・・・土曜、勝手に帰りやがって。お前は・・・」
「用がないなら失礼します」
「おい、お前な・・・」
卓海ははぁと息をつき、肩をすくめた。
・・・その、困ったような顔。
めったに見ることのない鬼の困惑の表情に、絢乃は内心で少し驚きながらも、視線を合わせることなく目を伏せていた。