蜜愛シンドローム ~ Trap of Kei ~
───5分後。
卓海はふむと言った様子で腕を組んだ。
「・・・ホテル住まい、ね。あいつにしては珍しいな」
「・・・」
「ま、仕事って言ってんなら、仕事が終われば戻ってくるだろ」
卓海はコーヒーを一口飲み、言う。
けれど絢乃は心の中で、軽く首を振った。
・・・なぜなのかわからないが、慧は多分、帰ってこない・・・。
そんな予感がする。
そしてそれを思うと、絢乃の心は凍りついたように、何も考えられなくなってしまう。
「・・・しかし、お前。あいつがいなくなったことがそんなにショックだったのか?」
「・・・加納さん?」
「お前ら、やっぱり普通じゃねぇよ。自分じゃ気付いてねぇのかもしれないけどな?」
卓海は呆れたように言う。
絢乃は卓海の言葉に、ぐさっとしつつも、どこかで納得していた。
・・・普通じゃない。
確かに、仕事で兄がいなくなったというだけで、ここまで寂しく思うのは普通ではないのかもしれない。
自立しなければと思っていたのに、いざ慧がいなくなると、寂しさと不安に襲われる。
一日でも早く戻ってきてほしい、と思ってしまう。
絢乃は細く長いため息をつき、コーヒーカップを傾けた・・・。