蜜愛シンドローム ~ Trap of Kei ~




「・・・もしもし」

『あぁ、慧? ・・・ね、今、収録で川崎に来てるんだけど。たまには夕飯にでも行かない?』


携帯の向こうから聞こえる、よく通る鈴のような声。

大学の頃から変わらないその声は、女優となった今、普段はテレビの画面を通して慧の耳に入ってくる。

───角倉沙耶。

沙耶は慧の大学時代の恋人だ。

付き合ったのは大学三年の後半から四年までで、社会人になるのに合わせ、二人は別れた。

お互い納得した上での別れだったが、この数か月、沙耶から連絡が来ることが増えた。


「・・・悪いけど、今は川崎にいないんだ」

『えっ。どこにいるの? 引越したの?』

「違うよ。仕事の関係で汐留に来てる」

『そうなの? じゃあそっちに行くわ。汐留に着いたら連絡するから。じゃあね!』


沙耶はまくしたてるように言い、電話を切った。

慧はしばらくツーツーと鳴る電話を眺めた後、パタンと携帯を閉じた。

───大学三年の時。

付き合わない? と言ってきたのは沙耶の方からだった。

沙耶は大学のミスコンで選ばれるほどの美貌の持ち主で、特に長い黒髪が印象的だった。

そして、名前・・・。


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