蜜愛シンドローム ~ Trap of Kei ~




絢乃は得体のしれない黒いものに胸を苛まれながらも、こくりと頷いた。

瞬間、沙耶の顔から険が取れ、沙耶はぱっと顔を輝かせた。

そしてCMで見ているのと同じ、美しく晴れやかな笑顔を浮かべて絢乃を見る。


「そうだったのー。ごめんね、私、誤解しちゃったわ」

「・・・」

「あのね、慧は仕事に出てて、夜まで戻ってこないの。・・・それは? 慧に渡すものかしら?」

「・・・は、はい」


絢乃がどもりながら言うと、沙耶はくすりと笑って絢乃の手から紙袋を持ち上げた。

そのまま頭半分ほど低い位置にある絢乃の顔を見下ろし、にこりと笑う。


「これは、私が渡しておくわね。慧には言っておくから」

「・・・すみません」

「いいのよー。今度、慧が居る時にお茶でもしましょ?」


沙耶はヒラヒラと手を振り、言う。

絢乃は内心で戸惑いながらも、軽くぺこりと頭を下げて踵を返した。

そのまま、エレベーターホールの方へと歩いていく。

・・・どうして、角倉沙耶が慧の部屋の前にいたのか・・・。


それが示す意味は、ひとつしかない。


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