蜜愛シンドローム ~ Trap of Kei ~
2.らしくない?
それから3日後。
定時後。
絢乃は意を決し、会社を出た後、慧に電話を掛けてみた。
・・・角倉沙耶のことが、頭から離れない。
慧が、どういうつもりで家を出たのか・・・。
それを、知りたい。
プルルルという呼出音がしばらく鳴った後、やがて慧が出た。
『・・・アヤ?』
───10日ぶりの慧の声。
いつも、一番傍で絢乃を包んでくれた、その声・・・。
絢乃はなぜか涙が出そうになり、慌てて言った。
「久しぶり、慧兄。どう? ホテル暮らしは?」
『・・・まあまあかな。で、何か用なの?』
心なしか、冷たく聞こえるその声。
・・・いつもの優しさを押し殺したかのような、その声。
絢乃は内心で冷たいものを感じながら、続けて言った。
「・・・あの。慧兄に聞きたいことがあって。ホテルに行ってもいい?」
『ダメ』
にべもない返事。