蜜愛シンドローム ~ Trap of Kei ~



───そして、30分後。

ホテルのエントランスをくぐった絢乃は、そのままエレベーターホールの方に向かおうとした。

そのとき。


「・・・アヤ、こっち」


横から声を掛けられ、絢乃は足を止めた。

見ると、柱に寄りかかり、腕を組んだ慧がじっと絢乃の方を見つめている。

仕事帰りなのだろうか、黒いスラックスにラインストライプのワイシャツを身に着け、軽く腕元を捲ってある。

10日ぶりに見た慧の姿に、絢乃は内心でドキッとした。

端整な顔立ちといい、少し長めのさらっとした黒褐色の髪といい・・・

こう見ると、やはり慧はかなり格好いい。

立ち尽くす絢乃の前に、慧は柱から身を起こしてすたすたと大股で歩み寄ってくる。

その目は絢乃と目があった瞬間、一瞬切なげに歪められたが、すぐに片眉を上げて何か言いたげに絢乃を見る。


「・・・どうして来たの、アヤ? ダメって言ったのに」

「どうしても聞きたいことがあって」


絢乃は慧の目を真っ直ぐに見、言った。

慧はしばし絢乃の視線を受け止めた後、肩をすくめた。


「・・・わかったよ、アヤ。1Fのカフェに行こう」


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