蜜愛シンドローム ~ Trap of Kei ~
「・・・慧兄。慧兄はどうして、マンションを出たの?」
「・・・」
「角倉さんと一緒にいたいなら、そう言ってくれればいいのに。そしたら、私も・・・」
と言いかけた絢乃だったが。
慧の表情がみるみるうちに強張っていくことに気付き、言葉を止めた。
───慧が自分の前でこんな表情をすることは珍しい。
いや、きっと・・・絢乃がいないところで、慧はこういう表情をすることがあるのだろう。
自分が知らなかっただけで・・・。
離れないと、見えてこないものがある。
絢乃はそれを痛感し、コーヒーカップを持つ指先に力を込めた。
「・・・ね、慧兄。どうして慧兄は、角倉さんのことを私に隠していたの?」
「・・・っ、アヤ・・・」
「私が反対するとでも思った? 私のこと・・・信用してなかったの?」
心の奥底にあった気持ちが、ぽろりと零れる。
・・・どうしてそんな風に言ってしまったのかわからない。