蜜愛シンドローム ~ Trap of Kei ~




絢乃は慌てて口元を押さえたが、口から出た言葉は取り返しがつかない。

慧は驚いたように目を見開いた。

───その目によぎる、昏く鋭い光。

どこか切なげな影を帯びたその瞳が、なぜか心に突き刺さる。

慧は気持ちを静めるように大きな息をつき、やがて口を開いた。


「違うよ。そんなんじゃないよ。・・・それに、お前だって・・・」

「・・・?」

「あの男のことも・・・卓海のことも・・・おれには、何も・・・」


慧の声は掠れ、最後の方はよく聞き取れない。

絢乃は慧の言葉を聞こうと身を乗り出しかけたが、慧が軽く首を振った。


「・・・ごめん、アヤ。まだ仕事が残ってるんだ」

「・・・っ」

「悪いけど、先に戻らせてもらうよ?」


慧はレシートを掴み、素早く立ち上がる。

───明らかに、絢乃を避けようとしているその態度。


どうして・・・。



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