蜜愛シンドローム ~ Trap of Kei ~
12/23の夜。
───イブの前日。
絢乃はキッチンで、ロールケーキの生地を焼いていた。
・・・多分、慧がこれを食べることはないだろう。
誕生日はきっと、角倉沙耶と過ごすに違いない。
そもそも、慧はもうここには戻らないと言っているのだ。
それでも、何かせずにいられない。
───何かしていないと、気が狂いそうになる。
ただの自己満足だとわかっていても、慧のために何かをしたい・・・。
きっとこれは、全て自分で食べることになるだろう。
その空しさを想像しつつも、それでも作らずにはいられない。
絢乃は焼き上がった生地を冷まし、その間に生クリームと果物を用意した。
慧はフルーツのロールケーキが好きで、毎年絢乃はこのロールケーキを作ってきた。
そして絢乃がロールケーキを作っている横で、慧は翌日のイブの夕食の仕込み作業をしていた。
───二人の笑い声に満ちていた、あの懐かしい日々。
けれど今は・・・この広いダイニングに、絢乃しかいない。
涙が、じわりと滲む。
絢乃は慌ててぐいと涙をぬぐい、作業に戻った。