蜜愛シンドローム ~ Trap of Kei ~
放心した絢乃に、慧は顔を近づけ、熱を帯びた声で囁く。
「明日からは、お前の兄に戻るから。マンションに戻って、これまで通りの生活に戻るから・・・」
「・・・」
「だから今夜だけ、おれを兄としてじゃなく、男として見て欲しい」
───耳元で囁かれる、掠れた声。
絢乃を見つめる、切ないまでの熱情を帯びた視線。
絢乃は衝撃のあまり、体を氷のように固まらせていた。
そんな絢乃の頭に、慧の言葉が何度も響く。
『これまで通りの生活に、戻るから』
絢乃は衝撃で麻痺した心で、ぼんやりと思った。
慧が戻ってくれるなら・・・
そのためなら・・・
───自分は何を犠牲にしても構わない・・・。
慧が戻ると言うなら、自分は何でもするだろう。
それで、慧が戻ってくれるのなら・・・。