大人的恋愛事情 SS
「俺、部長の愚痴マジで苦手なんです」
「私もよ」
「でも見えませんよ。いつも佐野さん笑顔で返してるし、ホント尊敬してます」
笑って言われて、そんなところを尊敬されても嬉しくもなんともない。
店前で思わず立ち止り森君を見る。
「尊敬なんて大袈裟よ」
「そんなことないですよ、仕事も早いし要領もいいし……俺なんかいつも怒られてばっかですから」
そんな弱気なことを言う、若い男性社員に入社当時の自分を思い出し笑えてくる。
「笑うとこですか?」
森君が少し真剣に聞いてくるので、笑った事を後悔する。
そうだった、私も当時はそれなりに真剣に悩んでたっけ。
「ごめん……そういう意味じゃなくて、私も同じだったから」
「同じ?」
「そう。今の森君と同じように、先輩達の仕事ぶりに圧倒されてた」
私のそんな言葉に、森君が少しホッとしたような笑顔を見せて……。