あの夏で
俺は抱きしめられていた智の手をほどいた。
「智……。ごめんな。俺は先生じゃないと、だめみたいなんだ……」
「………。なんで……」
智は顔をふき、そして涙を流しながら震えていた。
「今までの俺はただ空っぽのままで、だけど先生を好きになってからその空っぽがどんどん埋まっていく感じがして、今は溢れだしそうなぐらい…先生でいっぱいなんだ。
先生が俺に生きる意味や、夢を教えてくれたんだ。
先生にふられたからって前みたいに戻りたくないし、ていうか先生以外考えられないんだ。
だから智の気持ちには応えられない」
「ッ…………!!!」
ポタポタと智の太ももあたりに涙が落ちていく。
「俺のこと諦めろ、とはいわない。
俺だって先生のこと諦めろって言われても諦められないし。
ただ、智の気持ちには応えられないだけだから」
俺は、先生以外は考えられない。
たとえ誰かを傷つけたとしても先生しかいないのだから。
ごめんな、智。
俺なんかよりもっといいやつはたくさんいるから。
俺なんかのために涙は流さないで。