ジューンブライド・パンチ
■ジューンブライド・パンチ
 2012年6月24日。快晴。素晴らしいお天気。

 台風が来ていたので、もう本当に頼めるのはてるてる坊主だけだと思っていた。
 梅雨時期は湿気っぽいし、いやだなんだと散々言っていた。まったくもって女心を分かっていない。
 ジューンブライドだよ。ジューンブライドになれるなんてね、こんなチャンス一生に一度だよ。分かっているの、こっち向きなさいよ、コラ。

 そう思ってみたものの、お姫様仕様のドレッサーの前で、ドレスで身動きが取れないので黙っていた。メイク中だし、髪の毛も、編まれたり、引っ張られたり。女の身支度は大変だ。

 ブライズルームには光がいっぱい差し込んでいた。6月、最終の日曜日。本当に、晴れて良かった。わたし達は今日、結婚式を挙げる。

 当の新郎は、緊張のあまり、あっちへ行ったりこっちへ行ったり、煙草を吸いに行方不明になったり。

「新郎さんは? 花嫁放置でどこへ行ったんですか!」

 介添えの人もあたふた。

「あーもう、じっとしてられねぇ」

 お車代などの準備を終えて、やることが無くなり頭を抱えている。休んでいればいいのに。黙っていても本番になる。

「カズちゃん、ちょっと落ち着きなよー」

 カズミ。わたしより4歳下の、夫。先月婚姻届を提出し、つがいになりました。いやぁ、なんだか夫婦なんて、ちょっとまだ照れくさくて。

「ああ、じゃあキャンドル分け火のお手伝いは、社長と、マミちゃんカズちゃん姉妹と……」

「え? 俺?」

「違うよ、わたしの友達にカズヨちゃんて子が居るって言ったじゃない。同じカズちゃんだけど」

「おお」

 この会話、何回かしたような気がする。招待状発送のときとか。座席決めのときとか。緊張で舞い上がっているな……それはわたしもだけれど。

 カズミの携帯が鳴った。普通、新郎新婦の携帯は鳴らさないのがルールだけれど、まぁ、もう面倒なのでどうでも良い。それどころじゃない。

「まじ、着いたのか?」

 着替えまで時間があったので、まだカズミは私服だった。

「ちょっと、下に行ってくる」

「また?」

「あいつら、着いたって」

 急な仕事の都合で、前日に「行けないかもしれない」という新郎友人が一気に3人も出てしまった。カズミの同僚で、シフトが急に変わってしまう業種だった。どうなることかと思ったけれど、朝早くに「出発した。間に合うから」とカズミに連絡が来ていた。
 その友人達が到着したみたい。間に合って良かった。それなら、じっとしてはいられないか。普通、挙式前に新郎が友人の前に顔を出すなんて……まぁいいか。

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