ジューンブライド・パンチ
「早く戻ってきなよー」

 その間も、わたしは身支度でてんやわんや。人生のうちこんなに濃い化粧をすることはまず無いってくらいにメイクを施された。でも、ドレスだからこれくらいしないとダメだって。それは納得。ヘッドドレスは真っ白なカサブランカ。ドレッサーの上にウエディングドレス用のブーケ。ふたつとも、手作りした。

 しばらくすると、カズミがニコニコしながら戻ってきた。友人達に会えたのがよほど嬉しかったらしい。

「あんまりさ、挙式前に歩き回らないように」

「じっとしていられねぇよ。緊張して」

 うるさかったので追い出されたが、カズミの甥っ子くん5歳が、さっきまで居たのだ。ちびっこギャングは騒がしいので、スタッフさんに連行されて行った。

 わたしの支度は終わっていたので、インカムをつけた介添えの人が来て、カズミに向かって言う。

「新郎さま、そろそろお支度を」

「あ、ハイ」

 声が裏返っている。あと、脇汗びっしょりだよ。

「武田くん達、来られて本当に良かったね。カズちゃんのお祝いしたくて、一生懸命来たんでしょうよ」

「うん」

 照れくさそうに、笑う。嬉しそうだね。わたしはその笑顔を見て、安心する。

 ワイシャツのサイズが合うだの合わないだのと、何度か着替えをした。体が大きめで、首まわりがMサイズなのに肩幅がLLサイズだったりして。
衣装合わせから今日まで、一応、食生活は気を付けたつもりだけど……。物足りないときは自分で買い食いをしていたからあまり意味が無かったかもしれない。

「おお、ピッタリ。というかゆるいぐらい。ちょっと余裕持って試着したんだっけ?」

 光沢のある濃いグレーの衣装。似合っていますねぇ。茶髪で顎ヒゲがあるので、少しチャラく見えますが。

「太ったでしょ、少し。いいじゃないの、似合う、似合う」

 大きな鏡の前で、横向いたり髪を触ってみたり。……子供か。七五三か。

 わたしは、慣れないドレスで室内を歩く練習中。なんかもう、いろんな附属品が体に付いている。キラキラヒラヒラの装飾品が。

「ちょっと、どうなのよ。ドレスこれ、カズちゃんが選んでくれたやつだよ。なんか感想はないの?」

 床も天井も特別仕様のブライズルーム。新郎新婦の、特別な部屋。カーテンも絨毯も真っ白。

 カズミが、カタログと衣装合わせで選んでくれたドレスだよ。こういうシルエットのドレスが一番いいなって言ったんだよ。わたしも、着たいなって思ったんだ。

 ウエディングドレスの基本サイズが7号ってどういうことなのだろう。良かったよ、自分が着られるサイズがあって。日本人女性の体型が全部細身だと思うなよ……。衣装合わせのときに、メラメラと怒りの炎が燃え上がったのだった。

 人気ドレスだったから、当日予約が入っていたのだけれど、先約の新婦さんが着られなくなったとかで、わたしにまわってきた。

 マーメイドタイプで、裾がフリルたっぷり。ベールもトレーンも凄く長くて、とても素敵だ。

「おなつちゃん。いいっすねぇ」

 わたし奈津、お嫁に行きます。


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