ジューンブライド・パンチ
 彼と出会い、交際が始まったのは、東日本大震災のすぐあと。
 結婚が決まって、カズミはお義母さんから「あなたは長男だから式をあげなさい」と言われていた。
 そして息子の結婚にテンションぶち上がったお義母さん。カズミから電話で「おなつが、6月が良いなぁって言ってた」と聞き、知り合いのツテで、6月で空いている式場を速攻でおさえた。

 わたしとしては、式場見学という面倒が無くなっただけでもラッキーだなと思っていた。ホームページを見たら素敵な式場だったし。でも、カズミは良い顔をしなかった。自分で探したかったのだ。カズミとしては、結婚式を挙げろと言われ、式場も親に決められて、反発の気持ちがあったのだ。

 そして、準備が始まる。それは、想像していたよりも数倍大変だった。

 彼の実家がある県での挙式だったため、毎回車で移動しなければならず「隣県だし行けるでしょ」と簡単に思っていたけれど、考えが甘かった。
 高速料金節約の為に一般道を行くと、3時間位はかかる。日曜日のたびに打合せとなると、かなり大変なことだった。

 カズミの仕事が忙しく、休みになるはずの土曜日が出勤になったりした。そうすると確実に休みになる日曜日にしか打合せを入れられない。

「……行きたくないなぁ」

 疲れているのに、可哀想だなと思った。最初はそれでも渋々打合せに行っていたのだけれど……。最後の方は、体力的に限界で現地には行かず、電話や郵送での打合せになった。それでも、衣装合わせとヘアメイク予行には直接行かなければならなかった。
 もうすこし近かったら……そんな風に何度も思った。

 結婚式って、本当にお金がかかる。本当に必要なものなのか、必要なことなのか。よく考えていかないと、目玉が飛び出るような見積もりが来る。それに、たった1日のお披露目で大金がかかることに納得がいかないカズミは「こんなにお金かけて、結婚式ってなんなの?」と言い出した。最初から、あまり乗り気じゃなかった。面倒なことが山積み。結局、なんのために結婚式を挙げるのか、自分の中で負の感情が増えて、意味を見いだせなくなっていた。

「大事なのはこれからだろ? これからお金が必要になってくるんだろ? 借金作るようになるじゃねぇか」

「だから、そうならないようにやってるんじゃん。手伝ってもらうの。なんの為の式場担当者なの」

 わたしは両家の見積書とにらめっこしていた。
 両家の見積書をわたしが計算する。なぜわたしが。こんなこと、新婦の仕事なのだろうか。わからない。でも、初めてのことだし、なにが正解なのかがわからない。
 いままで友人や親戚の結婚式に参列して、本当に表面の美しい部分しか見せられないのだなと感じた。
 見栄など張らなくてもいい。派手さなんかいらない。幸せならそれでいいのに。どうしてこんなに準備が大変なの。


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