ジューンブライド・パンチ
 新婦側も、嫁を出すのは初めての家だった。わたしは長女である。

「いいか? おなつ。おなつと結婚することに意味があるんだ。おなつと入籍したってことに意味があるんだぞ?」

「それ、別な時に言われたら感動的だけど、いまはトラブルの元だから言わなくて良いです」

 TPOで、言葉の感動も変わる。とにかく、わたしはいろんなことに負けないで、折れないで、最後までやり遂げたかったのだ。

「挙式はふたりだけでしたって良いし、なんか見せびらかすみたいでいやじゃね? 披露宴って」

 機嫌が悪い。いちいち文句を言う。
 ここで「はぁ? なに言ってんの!」と言えるなら、わたしはそっちのほうがラクだよ。やめるよ、もう中止、中止! 結婚式なんかやらない! わたしがキレたら、そこでハイ終了なのだ。意地だ。

 カズミの言うことも、理解できるのだ。これからが肝心なのに、いま多額のお金をかけられない。その通り。
 いろんな意味で、こんなに面倒なことだと思わなかった。大変だとは聞いていたけれど。自分達だけの考えでは真っ直ぐ進めなくて、イライラする。
 何気に、両家親戚が多くて100人越えの大きな披露宴になったのだ。人を集めてなにかひとつのことをするのって、とても大変。「大変だ」しか言えない。


「レストランウエディングで充分だと思うんだけど。質素に」

 まぁ、なんて言うか。
 聞く人が聞けば「情けない男だな」と思われるかもしれない。「よし、一生に一度だ。やってやろうじゃないか」と立ち上がれないものかと。引っ張ってくれないのかと。文句ばかりで、ラクなほうに行きたがる。でもそこは、子供なんだなぁって思っている。年上だろうが年下だろうが、関係ない。納得させるのがわたしの仕事だ。

 そして、今時の考え方だなって思う。あまり多くゲストを呼ばず、小さな結婚式を。とても素敵なことだ。アットホームで素敵な結婚式をした友達が居たし。
 
 どちらかといえば、カズミは結婚式を挙げなくても良い派だったのだ。結婚式を挙げた友人が少なかったようだ。入籍報告のみとか。男と女の考えの違いもあるだろうか。

「いいから。ごちゃごちゃ言ってないで、もう招待状を発送しているんだから、いまから中止しますなんてできないんだからね。そんなのバカだしアホだし、それこそ借金だよ。地獄だよ」

 ちょっと情けない。結婚式ひとつできなくてどうする。ふたりの一大イベント、人生の門出なんだぞ。
 姉さん女房、ここが踏ん張りどころ。でもね、できれば踏ん張らないで力を抜きたい。

 男と女ではこうもとらえ方が違うのかと思う。わたしは嫁に行く側なので、両親に感謝したいのですよ。花嫁姿を見せたいのだ。

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