ジューンブライド・パンチ
わたしには、年子の弟がいる。数年前、先に結婚した。彼の結婚式で、トラブルが起きた。父が負傷欠場したのである。頭の怪我だった。幸い大事には至らなかったものの、手術が結婚式前日で「息子の結婚式に参加できない」という不幸が襲ったのだ。
うそだろうと思った。思ったさ、なんなの。新郎の父負傷欠場なんて。挨拶もしなくちゃいけないのに。
幸い、弟の彼女は兄弟が多く、お姉さん達が先にお嫁に行っているから、新婦父は挨拶が得意だった……素晴らしい。
姉のわたしは終始号泣でしたが。お母さんかわいそう。弟かわいそう。クソむかつくことがある弟でもかわいい! と、わたしは泣きっぱなしだった。
今度は、わたしの番。
結婚式って、素敵なんだから。良いものなんだから。ふたりの結婚式を素晴らしいものにするために、わたし達は、準備をしているのだ。
立ち止まってたまるか。これから新たにふたりが始まるの。その門出だもん。両親に花嫁姿を見せたいんだ。負けない。わたしは負けない。
誰と、なにと戦っている? わからない。でも負けない。
幸せになるために、いままでの人生、辛い思いも悲しい思いもしてきたんだ。カズミだって苦労してきた。幸せになるんだ。カズミとわたしと、ふたりで幸せになるんだ。
結局は、テーブルクロスやわたしのお色直しドレス、和装もカズミ選出のものだ。テーブルや高砂のお花の色合いも。なんだかんだで、こういうものを選ぶのは好きらしい。自分の退場曲も選んだりして。
衣装合わせや打合せと平行して、結納も略式だけど執り行った。これは、うちの父親が「やらないなら、やらないで良いけど、でもな、犬猫をくれてやるんじゃないぞ」と、お母さんに漏らしていたと聞いて、やるようにした。
ああもう、本当に面倒くさい。ため息しか出ない。体重は4kg減ってしまった。
事務職で良かったと、この時ほど強く思ったことは無かった。書類、書類、また書類。締切、数字の計算。ひとの根回し等々……。
カズミの弟も、兄より先に結婚している。子供も居る。でも、カズミの弟は結婚式を挙げていないから、あちらのご両親はテンション最高潮なのだ。しかも男の兄弟なので、お義母さんは、ドレスや着物を選ぶのが嬉しいらしく「奈津ちゃん、なんでも似合うわぁ! 着物も着るんでしょ? 是非着て! 好きなもの着て!」と、大変喜んでおられる。
可愛がってもらって、わたしはとても恵まれている。
わたしはカズミより4歳年上。カズミの弟の奥さんも、4歳年上。この年上好き兄弟め。
準備で口ゲンカしてわたしが「なんでそんな風に言うのよー!」って泣くのがパターンだった。「泣くな!ゴメンゴメン!」となる。「なんで泣くんだよ、泣く必要無いだろ」と、困らせてしまう。
わたしが泣いて、カズミも一緒に泣いたこともあった。カズミも泣き虫なのだ。