ジューンブライド・パンチ
 途中、散々もめながらも、なんとか前泊するために、式場近くの宿泊先に入ったのである。
 そこへ、新郎友人から仕事の都合で来られないかもという連絡が入って、カズミのテンションダダ下がりだった。スケジュールを聞いて無理そうだと判断したカズミは、迷惑はかけられないからと「無理しないで」と言ったらしいのだ。

 既に欠席者が1人出ていて、カズミも「こんなに友達に迷惑かけてやる結婚式なんて……」という気持ちでいままで来てしまった。ただでさえ乗り気じゃない結婚式。カズミは余計やりたくなくなっていたわけだ。

 まぁでも、ここまで来たらどんなにやりたくなくたって、腹をくくってもらわなくちゃいけない。

 なんだかさ、でもさ。考えすぎかなっても思ったんだよね。
 言い方が悪いかもしれないけれど、友人が参加できないのと、わたし達が結婚式を挙げるのと、無関係というか。お祝いして欲しいから招待状を出したのは事実だけれど、参加できないのは仕方がないこともの。

 ……とにかくだ。今日は、結婚式当日なのだ。

 前日の土曜日までカズミは仕事。わたしも金曜日まで仕事。お互い、疲れは溜まっている。

 でも、でも、でも! 本当に、今日でこの大変さから解放されるのだ。すべては今日の輝く1日の為。他はどうでも良かった。打合せ三昧の日々。カズミのモチベーションを保たせ、両家両親の機嫌を取り、普通に仕事をしながら書類をこなし、毎晩、粘土まみれになりながら手作りのものを作成し……ああ、もう挙げればキリがないくらい。自分でも思う。よくやった。

 ラクすることもできたのに。置かれた状況がそれぞれ違ったのだ。結婚式を挙げた友達の大半は「準備が大変でしょ」と口を揃えていう。ひとそれぞれでも、大変さは皆経験しているのだ。

 麻痺して、なにが大変なものか、もっと大丈夫なんじゃないかって思ったりして。落ち着け。なに大丈夫なんだ。もういやだよ。

 時間が無いなりに、ブライダルシェービングをして、まつ毛エクステも新品ピカピカ。準備の大変さも手伝って体重も落ちた。ドレスがきつくないよ!

 迷惑をかけてきた娘だ。「花嫁姿を見せる」という親孝行が、やっとできる。

「これ、大丈夫? いいの? これでいいのか?」

 なにが心配なのか分からないけれど、カズミは一生懸命、衣装のあちこちを見せている。

「別にどこもおかしくないから。大丈夫」

「そっか。……うわぁ、もう手がびっしょり」

「もう、あとやるだけなんだから。終わったら安心するから。覚悟を決めて下さい」

「リョウカイ」

 わかればよろしい。

 式場にはとても素敵な噴水付きパティオがある。そこで人前式を執り行う。式場は創立5周年くらいだそうだけど、初めての経験なのだそう。

 2階分くらいの階段を降りての入場なので、転んではいけない。
しかし……ドレスだよ。トレーンが超長いドレスで、転ぶなと。鬼か。鬼でも花嫁は白鳥のように、水面下で必死に足を動かさなければいけない。顔は涼しげにしていても。

 白鳥……? 
 まぁそれは置いておいて、だ。

< 6 / 19 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop