ジューンブライド・パンチ
 パティオは屋外なので、入場の練習ができない。もうみんないるから。練習したら見られるから。それってなんだか楽しみ半減だから。
 ぶっつけ本番なのだ。

「うわー、ひといっぱいいるぞ」

「支配人、入口に見学者を入れてる」

 スタッフのひとりが笑いながらそう言った。

「は? 見学?」

 見学者って、知らない人じゃないか。勘弁して欲しい。
 階段口の窓のカーテンをちょっと開けてのぞいている、カズミとわたしのお父さん。

「もう。ふたりともカーテン開けないで。見えるから。落ち着いて座っていて」

 わたしは緊張で舌がよく回らない。座っているからといって、緊張がほぐれるわけじゃないのはわかっているけれど。

 わたしもちょっとだけカーテンを開けて、見てみた。うう。ひとがたくさん居る。逃げたい。

 このまま脱走なんかしたら、映画みたいだなとか考えて、そのときは全ての終わりだし、なにより逃げる理由が無いからわたしはじっとしていた。
白い椅子、白い壁と天井。カーテンもドレスも白い。カズミの手袋も白い。でも汗でビショビショ。

 本番の説明を、カズミとお父さんは理解したのだろうか。上の空で聞いているけれど、本番は刻一刻と迫っているので、もうなんでもいいから動きだけ覚えてくれと思った。介添えスタッフが居るから心配いらない。

 その間にも、あっち向いてこっち向いて、新郎の肩に手を。視線ください。新郎新婦密着カメラマンが居る。ビデオカメラと写真カメラだ。鼻クソをほじることもできない。

「さぁ、始まりますよ」

 ヤバイ、オシッコ出そう。

「新郎の入場です」

 挙式入場で使いたいと思っていた、KOKIAという歌手の、伸びやかな歌声が流れた。

 大きな茶色い扉が勢いよく開き、カズミが出ていく。白い階段を降りて、太陽が燦々と降り注ぐパティオへ。そして階段の中腹で、わたしを待っている。

「お父様のエスコートで新婦、入場です」

 再び扉が開いて、パティオにたくさんの人達が居るのをフワフワする頭で見ていた。


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